大陸の南端に、環境魔力が濃く、結晶として析出する湖がある。
魔力の弱い者は近づくと魔力酔いを起こすため近くに住むひとはいない。その地方に住むひとびとからは神聖視され、高位の魔術師のみ立ち入ることができる。周囲の岩肌には析出した魔力結晶が付着し岩石自体も変性して魔石となっている。
魔石は自然の気ままさによって結晶となったものであり性質は複雑で取り扱いは難しい。百数十年前に戦争に利用しようとした南方のある国が魔石を採掘するため調査団を派遣しようとしたが良識ある魔術師はみな調査団に加わることを拒み、派遣された調査団員は魔術や湖についての知識・理解が浅く魔力酔いするもの多数、何とか耐え魔石を採取しようとしたものも雑に魔石を扱ったため魔力が暴発、調査団は全滅するという事故があった。これ以降湖は『魔術師の塔』が許可を出した者のみが立ち入りを許され、その他の者は立ち入ることを禁止されている。
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魔女と竜は湖に来ていた。
「ほんと酔狂だよね」
「ちゃんと許可は取ったわよ?」
「それにしても湖に来た理由が『杖の石にするため』とかさぁ、ないわー」
「それで許可が出る『塔』のほうが『ないわー』だと私は思うわ」
「それもそうだね」
魔女は湖面を歩き湖の中ほどまで進む。周囲の魔力と自らの魔力を練り馴染ませる。魔力のベクトルを変えてやると、魔力が凝り魔石となった。
「完成ー」
「おめでとう!いい石ができたね。それにしてもここは環境魔力が濃くて気持ちいいなぁ」
「それもあって来たのよ?石だけが目的じゃないのよ?本当よ?」
竜は少し笑い、ありがとうと答えた。